真剣勝負+α







「ねぇ悟浄、八戒にお土産買ってもいい?」

レジで支払いをしようとしたオレの手をチャンが引っ張った。

「八戒一人で家で待ってるんだもん。お土産買って行こうよ。」

「じゃぁチャン選びな。金はオレが払ってやるから。」

「本当?」

そう言うとチャンはケーキの並んでいるショーケースを見るため何とか前に出ようと人込みを押しのけ頑張っていた。
しかしさっすが人気の店、夕方ともなると客足は更に膨れ上がりショーケースでケーキを見るのはかなり難しそうだ。
何度もチャレンジしては押し流されて元に戻ってくるチャンの姿を見てたら自然と笑いがこみ上げてきた。

何つーか・・・川に戻ってきた鮭が一生懸命川を上ろうとして下流に流されて行く・・・みたいな?
その様子を想像したらどうしても笑いが堪えられなくなって店の隅で思わず吹き出した。
その時目の前にある物を発見したオレは下流に流れてきた(人波に押し流されてきた)チャンの襟首をちょいと摘んで後ろにあった黒板を指差した。

「悟浄?」

「ここに本日オススメのケーキの写真あるからこっから選ぶのは?」

「ナイスアイデア!!」

そう言うとチャンは少し背伸びをして黒板に貼ってあるケーキの写真を真剣に見つめた。
たかだかケーキ一個買うのにそんな真剣になんなくてもいいんでない?
まぁ何にでも一生懸命ってトコがチャンのいい所かもナ。





やがてチャンはその中の二つを指差した。

「ねぇ悟浄、コレとコレどっちがいい?」

「・・・ってオレに聞かれても。」

「八戒はどっちが好きかなぁ?」

チャンが選べばアイツは何でも喜ぶと思うけど・・・って言葉を何故かこの時言う事が出来なかった。
それを悔やむのは僅か一分後・・・。

「両方買って、チャンが一個食えばイイじゃん。これとこれな?」

「ホント?ありがとう悟浄!!」

チャンって本当に嬉しそうに笑うよなぁ・・・。
ポンポンと頭を撫でてから空いているレジの方へ行くと・・・そこには不吉な人物がいた。

「・・・オバチャン。」

「はい、いらっしゃいませ・・・お兄さんまた来なすったのかい。」

この可愛らしい店に、何でこんなババァがいるんだ。
可愛らしさを強調するならまず職員を統制して可愛いネェちゃんを揃えやがれ!!

「・・・あ〜他のレジ行くから、オバチャンまた今度ナ。」

そうして他の列に移ろうとしたら、隣のちょっと年はイッてるが中々綺麗なおネェちゃんがすまなそうに頭を下げた。

「すみません、店内大変混雑しておりますのでその場でご注文お願いいたします。」

「はいはい♪」

思わず笑顔でおネェちゃんの言葉に頷いてから正面に立っているオバチャンに視線を合わせガックリ頭をたれる。

やっぱこーゆー運命なのネ・・・。

「悟浄!大丈夫!?」

そんなオレの様子を心配してくれたのかチャンが後ろから手を振っている。
チャンの為にもここはとっととすまして帰る!

「オバチャン!よ〜く聞いてナ?一回しか言わねェよ?」

「はい。」

オバチャンはわざとらしくこちらに耳を傾け体もオレの方に近づけた。
今日は平気なんだろうな?

「・・・持ち帰りで、精霊達の輪舞(ロンド)と人魚の涙・・・ひとつずつ。」

「は?精霊の涙?それはありませんが・・・」

「ひとつにまとめんなっツーの!」

やっぱり今日もオバチャンのテンションは変わらず・・・その後、前回同様何度も恥ずかしいケーキの名前を繰り返し、ようやくケーキを手にする事が出来た時には周りの可愛いお嬢さん方からいっせいに拍手を貰うほどだった。
勿論その中にはチャンも含まれていて・・・。
ショーケースに崩れ落ちてる間にオバチャンがケーキを詰めて・・・そん時、隣にいた店員のおネェちゃんが笑いながら妙な話をしてくれた。

「あのおばぁちゃん、この間ある方からこんな賞頂いたんですよ。」

そう言って見せてくれたとある地域新聞の記事・・・そこに書かれている内容は字が小さくて読めなかったけど唯一読めた賞の名は・・・

「GOODボケ賞」

このオバチャンが天然なのかワザとなのか・・・疲れきったオレに確認するすべはなかった。










嬉しそうにケーキを持って夕暮れの家までの道をチャンと二人で歩く事である程度精神力の回復したオレを待っていたのは、やけに爽やかな笑顔の八戒だった。

「お帰りなさい、悟浄。遅くまでお疲れ様でした。」

オレの本能が何か叫んでいる、今家に入るのは危険だ・・・と。
しかしそんな事全く感じない天然のチャンは出迎えてくれた八戒ににっこり笑顔でさっき買ったケーキの箱を手渡した。

「八戒!これ、悟浄とあたしからお土産!」

「ありがとうございます。」

「あ、でも選んだのはあたし。後で一緒に食べようねv」

「そうですね・・・ところで、ひとつお伺いしてもいいですか?」

チャンは家に入って居間のテーブルに荷物を置いて振り返った。
オレは相変らず八戒と視線を合わせる事ができず戸口に立ったまま。

「買い物・・・どうなりました?」

「「あっっ」」

オレとチャンは同時に声を上げた。
今日の目的は茶ではなく買い物だという事を家に帰るまで二人とも全く気づかなかったのだ。
あーようやく八戒の笑顔の意味が分かったワ。

「ま、オマエの腕なら冷蔵庫の残りモンで何とかなるだろ?」

わざとらしく大げさに八戒の肩を叩いて顔を覗きこむが、その笑顔はさっきよりも涼しげで・・・しまった・・・上着着てくるべきだった。

「・・・昨日悟空が来なければ何とかなったんですけどね。」

「あー、そー言えば・・・そうだったなぁ〜」

昨日悟空が来て冷蔵庫の中身を調味料以外空にしていったから、チャンが買い物に行くと手を上げた事を思い出す。
そして荷物が多いからオレも一緒に・・・と言う事だったカ?



これ以上弁解不可。
悟浄サン、チャンと一緒に撃沈。



結局今からもう一度買い物に行ってそれから食事の支度・・・となるとかなり遅くなるという事で今日は出前をとることにした。

勿論支払いは・・・オレ。
オレのヘソクリ今日でいくら飛んだ?

出前が来る前にチャンは着替えると行って部屋に引っ込んだ。
テーブルに座ったオレに八戒がコーヒーを持ってきてくれて、珍しく機嫌が早く直った事に驚きながらもそれを無視してコーヒーに口をつけた。

「・・・結局どちらがジャンケンに勝ったんです?」

ブッ!!

オレは思わず口にしたコーヒーを新聞に向って吹き出した。
八戒は笑顔を崩さず、無言で布巾をオレに手渡した。
オレも何も言わず布巾を受け取ると取りあえずシャツにこぼれてしまったコーヒーをゴシゴシ拭った。
拭き終ったところで八戒は更に追い討ちをかける。

「で、悟浄はに何をお願いしたんですか?」

バシャッ!

もう、カップの中のコーヒーは殆ど空に近い。
シャツも拭くよりは脱いだ方が早いほど濡れてしまったので、無言でシャツを脱いでからテーブルに叩きつける。

「見てたのかよ!」

オレが睨んだ所で八戒には効かない。
涼しい顔をして八戒は自分のコーヒーを一口飲んだ。

「あの店は町内会長さんのお家に行く途中にあるんですよ。で、帰りに会長さんとお話をしながら歩いていたら馴染みの声が聞こえてきて・・・。周りの方にお伺いしたら悟浄とが何かを賭けてジャンケンをしている、一回勝負らしい・・・と言う事を言っていて、会長さんの手前最後までいる事が出来なかったんで途中で帰ったんです。」

「で?」

「それで用事が済んでからもとの場所へ戻ったんですけど、もう誰もいなかったんです。」

あっけらかんと言い放つ八戒だけど・・・家に帰った時から目が笑ってねェっつーの!

チャンの事が気になってしょーがねェんだろうけど、心配する事なんか何もしてねェって・・・。
オレは音を立てて椅子に座ると面倒臭そうに髪を掻きながら八戒に簡単に説明した。

「・・・俺が勝って、チャンとケーキ屋に行った。」

「ケーキ屋さんに?悟浄が?」

「そ。で、美味しいケーキを二人で食べて、チャンがオマエに土産買うって言うから・・・またオバチャンと楽しいオハナシをして帰ってきた。そんだけ♪」

今日って色々あったけどまとめるとこんなもんか・・・結構薄いな。

「そう・・・ですか・・・」

これでコイツの機嫌も直るかと思いきや、八戒の表情は・・・先程より黒さを増したような気がする。
背筋を冷たいものが伝ってきた・・・気がした。
オレはごくりとツバを飲み込むと、額から流れる汗を拭う事も出来ずその場に凍り付いていた。

まだ何かたりねェのか?

「それで、悟浄の本当のお願いはなんだったんですか?」

知りたいのはソコか!!
八戒の真意にようやく気づいたオレは心の中で手を打ったが・・・それだけは言えない。

「オマエには関係ない。」

「って事は僕に言えないような事なんですね。」

「そう思ってんのはオマエだけだろ?何考えてっかしんねーケド。」

見えない火花のようなものがオレと八戒の間に散ろうとしたまさにその瞬間。
軽やかな足音と共にチャンの声が部屋に響いた。

「八戒!何か扉ドンドン叩いてる音するけど出前来たんじゃない?」

チャンに言われて二人揃って扉を見ると、確かに何か叩いてる音がする。
ご丁寧にオレの名前を叫びながら・・・。

「はい、八戒預かってたお財布。」

「ありがとうございます。悟浄その話はまた今度にして、零したコーヒーちゃんと片付けてくださいね。」

「へいへい。」

また今度・・・ね。
取りあえず話題に上がりそうになったら暫くトンズラだな、こりゃ。

「それから、が困ってますからまず服着替えてきてくださいね。」

「は?」

振り向くとチャンが片手で顔を隠して手探りで居間のテーブルへ向おうとしていた。



・・・チャンにオレのお願い聞いてもらうにはまだまだ時間、かかるってトコか?
オレはさっき机に叩きつけたシャツでテーブルと床に零れたコーヒーを適当に拭くと、今だオレを直視出来ずにいるチャンの頭にポンと手を置いた。

「すぐ着替えてくっから、ビール一本ヨロシク♪」

「了解!」

そう言うとチャンは元気良く台所に姿を消した。
その後姿を暫く見つめた後、オレは鼻歌を歌いながら替えのシャツに着替えるべく部屋に向って歩き出した。





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真剣勝負のオマケです。
ここまで読んで下さってありがとうございますv
そしてあのオバチャン、再登場です!
掲示板で素敵な賞を頂いたのでせっかくだから使ってしまえ・・・と言う事で♪
村瀬ケイ様、素敵な賞ありがとうございました(笑)ネタにさせて頂きました!
この話のポイントは再び恥ずかしい商品を買う悟浄と、過保護な八戒さんと悟浄の対決(笑)でした。書いてて楽しかったです。
本当は頭で考えていただけなんですが(大まかな話を)参謀に電話で話をした所「読みたい♪」と言う後押しの結果?オマケ(+α)となりましたv
さて・・・悟浄の本当のオネガイ、それは一体何だったんでしょう?
私にも分かりません(おいおい)